mSPICE技術詳報パート2 :
回路マトリックスの分割技術

 

「回路シミュレーションの大規模化に立ち向かうにあたり」

  この10年間、テクノロジの先端化に伴って、シミュレーションの性能向上をテーマとした多くの研究文献が発表されています。それらの文献の中で、CG法(Conjugate Gradient Methods)とマルチグリッド法(Multi-Grid Method)は線形ネットワークに適用されています。しかしながらこれらの手法は一般的な回路解析には不向きで、抵抗電源ネットワーク解析に限定的に利用されているに過ぎません。
 回路シミュレーションの大規模化に対する要望を満たすために、これまでは解析結果の精度向上とシミュレーション処理時間をトレードオフする様々な手法が試されてきています。 これらは “spice-like” なシミュレータとされ、1億エレメントの回路規模にも対応できると説明されていますが、私たちはそれには多く疑問を感じています。 いずれにしても、シミュレーション規模の限界は、容量の小さなマトリックスソルバに起因しているため、シミュレータとしてはより容量の大きなマトリックスソルバへの対応が必要になっているわけです。
 デバイスモデル、線形化プロセス、数値化処理において縮約・縮退をすることなく高速高性能にシミュレーションができるとしたら、システム全体のすべてのタイムポイントに対して高速高精度な検証を目指すことができます。 我々はTwo-Stage Discrete Newton-Raphson反復法による革新的なマトリックスレベル分割技術を利用して、大容量・高スループットのシミュレーションを精度高く収束させる環境を構築していると同時に、サブマトリックスを高い効率性で解く特別な性質を持った超大容量なマトリックスソルバを開発しています 。

 

「回路マトリックスの分割技術」
 大規模回路を解くために私たちが提案する手法は、回路マトリックスの性質に基づいた回路分割技術です。 それぞれの回路コンポーネントには異なった物理的性質があり、またシステムマトリックスには多様な性質があります。抵抗(R)、インダクタ(L)、キャパシタ(C)等、回路内部の受動素子ネットワークは、通常のシミュレーションにおいては対称正定値(Symmetric Positive-Definite:SPD)マトリックスとなります。 一方トランジスタ、ダイオード等の能動素子クラスタは、一般的には非対称正定値(non-SPD)マトリックスとなります。受動素子のビヘイビアは線形、能動素子のビヘイビアは非線形であることから、線形の受動素子から線形マトリックスとしてSPDマトリックスを呼び出し、同様に非線形の能動素子から非線形マトリックスとしてマトリックスを呼び出します。続いてSPDマトリックス、線形マトリックス、 SPDソルバ、および線形ソルバを相互交換し、またnon-SPD マトリックス、非線形マトリックス、non-SPDソルバ、および非線形ソルバを相互交換して利用します。
 さらに大きな線形(SPD)サブマトリックスは、代数的マルチグリッドソルバ(Algebraic Multi-Grid solver:AMGソルバ)を使って効率的に解くことができます。 AMGソルバは高速な線形ソルバで、収束性に優れ、拡張性が高いとされている解法です。小さなnon-SPDはダイレクトソルバもしくは効率的なブロック三角ソルバ(Block Triangular Solver:BTS)で解かれます。分解処理はニュートンラフソン反復内のトランジェントシミュレーション内で実行されます。 線形と非線形のインタフェイスは等価回路モデルとしてダイナミックに抽象化され、収束性を保証するために回路内の線形-非線形間で反復を繰り返すことになります。そして従来のSPICEシミュレータと同様、収束性を確認する手法やダイナミックなタイムステップコントロール手法が組み込まれることで、True SPICEレベルの精度が保証されます。


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