人の姿を映さず、会話も録音せずに、室内で人やペットが活動しているかを確認する。
誰もいないはずの空き家や倉庫で、人の出入りやドア・窓の開閉による変化を捉える。
こうした見守りやセキュリティが、室内の空気に生じるわずかな揺らぎを測ることで実現できる可能性があります。
当社が実用化を進めているInfrasonic空間センサーは、カメラ映像やマイク音声ではなく、空間に生じる微小な空気動圧の変化を捉えるセンシング技術です。
現在広く使われている人感センサーや監視カメラとは異なる原理で空間を観測するため、社会実装が進めば、これまでにない「第3のセキュリティデバイス」になる可能性があります。
今回は、Infrasonic空間センサーの仕組みと、住宅、見守り、空き家、倉庫、スマートホームなどへの展開可能性を、企画部門や技術部門の視点からわかりやすく解説します。

Infrasonicとは何か
Infrasonicとは、一般に20Hz以下の、人の耳では聞き取りにくい低周波領域を指します。室内で人が歩く、ドアを開ける、窓から外気が入る、ペットが動き回る。こうした出来事が起きると、空間内の空気はわずかに動き、圧力も変化します。
私たちは普段、その変化を感じることはありません。しかし、高感度な空気動圧センサーで計測すると、空気の揺らぎは、波形の大きさ、周波数、持続時間、変化の立ち上がり方などの違いとして現れます。
例えば、人が室内を歩いたときに生じる緩やかな変動と、ドアを開閉した瞬間に生じる圧力変化は、同じ波形にはなりません。
窓の開閉、外気の流入、建具への衝撃、人やペットの移動なども、それぞれ異なる空気動圧の変化として現れる可能性があります。
これらの波形を解析することで、「空間内に活動があるか」「長時間変化がないか」「通常とは異なる変化が起きたか」を把握することが、Infrasonic空間センシングの基本的な考え方です。
人感センサーやカメラとの違い
現在の見守りや警備では、人感センサー、開閉センサー、監視カメラなどが広く利用されています。
人感センサーは、一定範囲内の人の動きや温度変化を検知する仕組みです。比較的安価で導入しやすい一方、検知範囲や向きに左右されやすく、人が動かずにいる状態を把握することは得意ではありません。
開閉センサーは、ドアや窓が開いたことを明確に検知できますが、監視したい扉や窓ごとに設置する必要があります。
監視カメラは、映像によって状況を詳しく確認できる点が大きな強みです。その一方で、死角、照明条件、映像保存、通信容量、プライバシーへの配慮といった課題があります。
住宅の寝室、介護施設、保育施設など、常時撮影に心理的な抵抗が生じやすい場所もあります。
Infrasonic空間センサーが取得するのは、映像でも音声でもなく、空間に生じた空気圧の時間変化です。
そのため、顔、服装、会話内容といった個人を特定する情報は取得しません。
また、特定方向を見るセンサーではないため、撮影範囲や視野角という考え方もありません。
従来のセンサーが特定の場所を「点」で監視するのに対し、Infrasonic空間センサーは、室内全体に広がる変化を一つの物理現象として捉えます。
この「点ではなく、空間全体の変化を見る」という考え方が、人感センサーやカメラとの最大の違いです。
人の活動・無活動を見守る
Infrasonic空間センサーの活用先として期待されるのが、独居高齢者などの生活見守りです。
このセンサーが目指すのは、「食事をした」「転倒した」といった具体的な行動を断定することではありません。
一定時間、生活活動に伴う空間変化があるかどうかを継続的に確認し、普段は活動が見られる時間帯に長時間変化がない場合に、家族や管理者へ知らせる仕組みです。
例えば、朝から室内の変化がほとんど検知されない場合、家族のスマートフォンへ「一定時間、活動が確認されていません」と通知します。
家族が電話やメッセージで確認し、応答がなければ見守り事業者や駆けつけサービスにつなげることで、異変を確認するための入口になります。
常時映像を確認する仕組みではないため、見守られる側のプライバシーや心理的負担を抑えられる点も大きな特徴です。
登園バスの園児置き去り防止への応用
Infrasonic空間センサーは、登園バスや送迎車両における園児の置き去り防止にも応用できる可能性があります。
全員が降車した後も園児が車内に残っている場合、呼吸や小さな体動によって微細な空気動圧の変化が続きます。この変化をセンサーで捉え、「車内に人が残っている可能性」を運転者や園の管理者へ通知する仕組みです。
特定の座席を監視するのではなく、車内全体の変化を少数のセンサーで確認できる点が特長です。また、映像や音声を取得しないため、プライバシーにも配慮できます。

実用化には、エアコン、換気、車体振動などの影響を確認する実車試験が必要です。また、本センサーは職員による目視確認に代わるものではなく、既存の安全装置や確認作業を補完する追加の安全対策として活用することを想定しています。
ペットの活動状況を把握する
ペット見守りにも同じ考え方を応用できます。
実現可能な範囲は、ペットが室内を動き回っている状態か、動きが少なく寝ている状態かといった、活動・無活動の大まかな変化を把握することです。
犬か猫かを識別したり、食事や排せつなど具体的な行動を判定したりすることはできません。
一方で、留守中に一定の活動があるか、長時間ほとんど動きがないかを把握できれば、飼い主が確認するきっかけになります。
カメラ映像を常時確認するのではなく、長時間変化がない場合や、通常とは異なる大きな空間変化が発生した場合にだけ通知することで、飼い主の確認負担を軽減できます。
空き家や倉庫の侵入兆候を捉える
空き家や無人倉庫では、Infrasonic空間センサーの特性を生かしやすいと考えられます。
無人状態が続く空間では、通常時の空気動圧変化は比較的限定されます。
そこへ人が入り、ドアや窓を開け、室内を移動すれば、通常とは異なる空気の変化が発生します。
この変化を一次検知し、管理者のスマートフォンや警備システムへ通知することで、現地確認や駆けつけ判断の材料にできます。
従来の警備では、侵入口となる窓や扉ごとに開閉センサーを取り付けたり、複数のカメラを設置して死角を補ったりする方法が中心です。
Infrasonic空間センサーは、既存のセキュリティ機器をすべて置き換えるものではありません。
しかし、空間全体の変化を捉える新たな一次検知レイヤーとして加えることで、人感センサー、開閉センサー、カメラでは捉えにくかった変化を補完できる可能性があります。
特に、監視対象が広い倉庫、定期巡回に人手がかかる空き家、カメラを設置しにくい住宅や施設では、導入価値が期待されます。
スマートホームや空調との連携
Infrasonic空間センサーは、単体で使うだけでなく、スマートホーム機器、空調設備、クラウド、スマートフォン通知などと組み合わせることで、より大きな価値を生み出します。
現在のスマートエアコンや住宅設備は、室温、湿度、運転状態などを遠隔で確認できます。
しかし、室内が高温または低温であることは分かっても、その部屋で高齢者やペットが普段どおり活動しているかまでは分かりません。
そこで、空調が取得する室内環境データと、Infrasonic空間センサーが捉える活動・無活動の変化を組み合わせます。
例えば、室温が高い状態で長時間活動が確認されない場合に、家族へ通知することができます。
子どもの帰宅時間帯に玄関付近の変化を知らせる、留守宅で通常とは異なる空間変化があった場合に確認を促すといった使い方も考えられます。
「室温」と「暮らしの変化」を同時に把握することで、従来のスマートホームにはなかった見守り価値を追加できます。

LDS-T6B空気動圧センサーの特長と実績
Infrasonic空間センシングを成立させるためには、室内に生じるごく小さな空気の圧力変化を安定して取得できるセンサーが必要です。
当社が開発したLDS-T6Bは、空気中の微小な動圧変化を捉える空気動圧センサーです。一般的なマイクロフォンが主に可聴音を対象とするのに対し、LDS-T6Bは、呼吸のような低周波の微小変化から、人の移動、ドアの開閉、空間内の動きに伴う変化まで取得できます。
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主な特長は次のとおりです。
・Infrasonicを含む低周波領域の変化を取得
・静圧ではなく、時間的に変化する動圧を検出
・外部ノイズの影響低減を目的とした金属ケース構造
・小型で設置場所を選びやすい構成
・社内評価条件において、約0.5Pa程度の微小な圧力変動を確認
このセンサー技術は、空間センシングだけに使われてきたものではありません。
当社はこれまで、身体にセンサーを装着せず、寝具やマットを介して呼吸、心拍、体動などを捉える非接触見守りセンサーを製品化してきました。保育施設向けの午睡見守りセンサーや介護施設の見守りセンサーでは、累計20,000台以上の導入実績があります。
介護・医療分野でも、利用者に負担をかけずに呼吸や在床状態を把握するセンシング技術として活用してきました。
こうした微小な生体信号を実環境で安定して取得してきた経験が、現在のInfrasonic空間センシングの技術基盤になっています。
地震前兆観測にも応用
空気動圧センシングは、人やペットの見守りだけでなく、当社の高島式地震予知でご紹介している地震に関連する微弱な環境変動の観測にも応用されています。
建物内で観測される微小な圧力変動や共振現象を捉え、地震発生前に現れる変化の把握を試みる技術です。
この考え方に基づく地震推定技術は、特許第6995381号として成立しています。
また、「地震破壊核形成信号の遠隔観測技術」として学会発表も行われ、当社では現在も観測データを解析し、地震前兆波に関する記事を継続的に公開しています。
生体の呼吸や心拍、室内での人の動き、ドア開閉、建物内の微弱な環境変化。
一見すると異なる現象ですが、いずれも空気や構造物に生じる小さな動圧変化を捉えるという点では共通しています。
生体、空間、地震という異なる領域で蓄積してきた計測経験が、LDS-T6Bの大きな技術的特長です。
第3のセキュリティデバイスになる可能性
これまでのセキュリティ機器は、大きく二つの考え方で発展してきました。一つは、人感センサーや開閉センサーによって、特定地点の変化を検知する方法です。もう一つは、監視カメラによって、空間の映像を取得し、状況を確認する方法です。Infrasonic空間センサーは、そのどちらとも異なります。
人の姿を撮影せず、特定のドアや窓だけを監視するのでもなく、空間全体に生じる物理的な変化を捉えます。
社会実装が進めば、人感センサーが「特定地点の動き」を捉える。カメラが「映像による状況」を捉える。Infrasonic空間センサーが「空間全体の変化」を捉える。という3層のセキュリティ構成が可能になります。
人感センサー、カメラ、Infrasonic空間センサーは、どれか一つを選ぶ関係ではありません。
異なる原理のセンサーを組み合わせることで、死角、プライバシー、検知範囲、誤通知、運用負担といった、それぞれの弱点を補完できます。Infrasonic空間センサーは、空気の揺らぎから、人やペットの活動・無活動、ドアや窓の開閉、無人空間の異常変化を捉える技術です。映像でもなく、音声でもなく、従来の人感センサーとも異なる。空間そのものを観測する。
この新しい発想が、見守り、住宅、警備、空調、空き家管理、倉庫管理を横断する「第3のセキュリティデバイス」として、新しい市場を生み出す可能性を持っています。
センサーに関するお問い合わせは下記へ
株式会社リキッド・デザイン・システムズ
センサー共創ビジネス担当 info@liquiddesign.co.jp
製品仕様書:https://liquiddesign.co.jp/wp-content/uploads/2025/10/LDS-VitalSensor-spec.pdf

