複層ガラス×Infrasonic空気動圧センシングで描く、次世代の高機能窓
本記事を書くことになったきっかけは、有限会社ロッグロッグから、弊社リキッド・デザイン・システムズが開発する空気動圧センサー「LDS-T6B」についてお問い合わせをいただいたことでした。
その後、両社で数回のオンライン会議を重ね、それぞれが持つ技術や今後の事業構想について意見交換を行ってきました。
有限会社ロッグロッグが取り組むのは、複層ガラスや窓周辺の未利用空間を活用し、従来の窓に新たな機能を持たせる技術です(特許)。今回の構想では、まず開閉しない「はめ殺し窓(FIX窓)」を対象とし、既存の窓を活用した後付け方式から製品化を検討しています。一方、弊社のLDS-T6Bは、人の移動やドアの開閉、室内で発生する微細な空気の揺れを捉えることができる空気動圧センサーです(特許)。
この二つの技術を組み合わせることで、
「窓そのものが、そこに暮らす人の生活変化を感じ取り、離れた家族へ知らせることができないか」
という新しい構想が生まれました。
まだ製品開発には着手しておらず、現在は両社で可能性を検討している構想段階です。現時点では、新築住宅専用の設備としてではなく、既存住宅や既存施設のはめ殺し窓を活用し、後付け工事によって見守り機能を追加する方向で検討しています。新たに窓全体を設置する方式と比べて工事負担や導入費用を抑えやすく、幅広い建物へ展開できることも、この構想の特徴です。
今回は、有限会社ロッグロッグの複層ガラス技術と、弊社の空気動圧センシング技術を組み合わせることで、どのような近未来の高齢者見守りシステムが実現できるのか、そのアイデアをご紹介します。

図1 複層ガラスと空気動圧センシングを組み合わせた「見守りスマート窓」の構想イメージ
図1では、既存のはめ殺し窓を活用した見守りスマート窓の将来構想を示しています。屋外側の小型太陽光発電、室内側の窓枠内部に後付けする空気動圧センサー、BLE、室内ゲートウェイ、Wi-Fi、クラウド、家族のスマートフォンまでの情報の流れを一枚にまとめています。スマートフォンに表示する「活動あり」「長時間変化が少ない」「確認推奨」などは医療診断ではなく、離れて暮らす家族が連絡や訪問を判断するための生活見守り情報を想定しています。なお、太陽光による自立電源を含め、現時点では製品仕様ではなく研究開発上の構想です。
独居高齢者が年々増え続けている
「独居高齢者が増えている」という話は、感覚的なものではありません。総務省統計局の「令和2年国勢調査」を見ると、65歳以上の一人暮らしは、2005年の約386万人から、2010年約479万人、2015年約593万人、2020年約672万人へと増えています。国勢調査は5年ごとの集計ですが、確認できる4時点すべてで増加しており、15年間で約1.7倍になりました。
2020年時点では、65歳以上人口の19.0%、つまり約5人に1人が一人暮らしです。人数で見ると男性約231万人、女性約441万人で、65歳以上人口に占める割合は男性15.0%、女性22.1%でした。高齢者の1人暮らしは、すでに一部の家庭だけの問題ではなく、社会全体で考える必要のある規模になっています。

図2 65歳以上の一人暮らし人口の推移(2005~2020年)
出典:総務省統計局「令和2年国勢調査 人口等基本集計結果」表Ⅴ-1-4、表Ⅴ-2-2を基に作成
※将来推計は国勢調査の不詳補完等を行った推計値を用いているため、上のグラフに示した国勢調査の実数とは集計条件が異なります。
グラフを見ると、65歳以上の一人暮らし人口は2005年の約386万人から2020年の約672万人へ増え、15年間で約1.7倍になっています。見守りを必要とする家庭が一部に限られないことを示す背景データとして、この構想を考える出発点にしています。
しかも、この傾向は今後も続くと見込まれています。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の世帯数の将来推計(全国推計)(令和6(2024)年推計)」では、世帯主が65歳以上の単独世帯は2020年の738万世帯から2050年には1,084万世帯へ、約1.47倍に増える見通しです。また、世帯主が65歳以上の世帯に占める単独世帯の割合も35.2%から45.1%へ上昇すると推計されています。
こうした数字を考えると、「何かあったときだけ使う見守り機器」を増やすだけではなく、普段の生活を邪魔せず、本人が操作しなくても、暮らしの変化に家族が気づける仕組みがますます重要になります。特に離れて暮らす家族にとっては、プライバシーを守りながら「今日もいつも通り生活している」と確認できること自体が安心につながります。
現在もカメラ、人感センサー、緊急ボタン、電気やガスの使用状況など、さまざまな見守りサービスがあります。しかし、それぞれに課題があります。カメラは生活空間を撮影することへの抵抗があり、緊急ボタンは本人が操作できなければ通知できません。人感センサーは設置場所の周辺しか捉えにくく、新たな機器の設置や電源工事が必要になる場合もあります。
そこで両社が着目したのが、すでに住宅に存在している「窓」です。新しい見守り機器を室内へ追加するのではなく、既存の窓を活用して見守り機能を後付けできれば、住宅に大きな変更を加えずに導入できます。まずは構造がシンプルでセンサーを安定して設置しやすい、開閉しないはめ殺し窓(FIX窓)から検討を進める考えです。
窓を、光や風を取り入れるだけの建材ではなく、暮らしの変化を感じ取る「住宅のセンサープラットフォーム」として活用できないか。その可能性を検討しているのが、有限会社ロッグロッグの複層ガラス技術と、当社の空気動圧センシング技術を組み合わせた新しい見守り窓構想です。
既存のはめ殺し窓を活用した後付け方式であれば、大掛かりな新設工事を行わずに導入できるため、住宅だけでなく高齢者施設や集合住宅などへの展開もしやすくなります。
ロッグロッグ社が持つ「窓を機能化する技術」
有限会社ロッグロッグは、長年にわたり窓の断熱・省エネルギー化に取り組み、複層ガラスや窓周辺の未利用空間へ新しい機能を持たせる技術を検討してきました。
今回の見守り窓構想では、まず既存建物のはめ殺し窓を対象に、後付け工事によって複層化やセンシング機能を追加する方式を想定しています。既存の窓を活用できるため、新しく窓全体を設置する場合と比べて工事規模や費用を抑えやすいことが大きな特徴です。
つまりロッグロッグ社が持つのは、単なる「ガラス」の技術ではなく、既存の窓を活かしながら、新たな機能を追加するための技術基盤です。既存住宅や施設の窓へ後付けできれば、見守りシステムを導入するために大規模な改修を行う必要がありません。また、ロッグロッグ社では幅広い既存窓への対応を想定しており、まずははめ殺し窓からスタートしながら、将来的には対象範囲を広げていくことが考えられます。
この「窓のプラットフォーム」にセンシング技術を加えることで、従来にはなかった機能を既存住宅へ持たせられる可能性があります。
空気そのものから、人の動きを捉える
そこに組み合わせるのが、LDSが開発する空気動圧センサーです。
LDS-T6Bは、室内で発生する微細な空気圧変化を電気信号として取得するセンサーで、0.15Hz~1kHzの広帯域応答を持っています。これまでベビーセンサー、介護、医療、睡眠解析などに応用されてきました。特許第7710729号も取得しています。
人が室内を歩けば、身体が空気を押しながら移動します。玄関ドアや室内ドアを開閉すれば、室内の空気圧も変化します。床への衝撃や建物の振動も、それぞれ異なる時間変化として空気に伝わります。
今回想定している見守り窓そのものは、まず開閉しないはめ殺し窓です。その固定された窓枠を、室内で起きる空気の変化を安定して捉えるセンサーの設置場所として利用する考え方です。
カメラのように「誰が何をしているか」を映像として見るのではなく、
「室内で動きが発生している」
「長時間、空間の変化が少ない」
「玄関ドアや室内ドアの開閉と思われる大きな変化があった」
といった空間の状態変化を捉えることが、この方式の基本的な考え方です。
ここが従来の見守り技術との大きな違いです。

図3 従来の高齢者見守り方式と「空気動圧センシング窓」の違い(構想)
左側は、カメラ、緊急ボタン、人感センサー、スマートメーターなど、代表的な見守り方式の特徴を整理したものです。右側は、既存のはめ殺し窓へ後付けした窓枠内部の空気動圧センサーで室内の空気変化を捉え、人の移動、玄関ドアや室内ドアの開閉、長時間の静穏などの「変化」に気づく将来構想を示しています。既存の見守り方式をすべて置き換えるものではなく、カメラを使わず、本人の操作も必要としない補完的な見守り手段を目指しています。
実際の住宅でも、人の動きは「空気の波形」に現れた
では、本当に人が歩いたり、ドアを開けたりするだけで、空気の変化を捉えられるのでしょうか。
LDSでは2026年2月、一般的な木造住宅の玄関付近にLDS-T6Bを設置し、平常時、人の通過、スライドドアの開閉、玄関ドアの開閉をそれぞれ約1分間計測する初期実験を行いました。
その結果、何もしていない平常時と比べ、人がセンサー近傍を通過したときや、スライドドア・玄関ドアを開閉したときには、0.5Hz帯と3~5Hz帯に平常時とは異なる波形変化が確認されました。特に玄関ドアの開閉では、複数回の大きな変化が波形として現れています。
もちろん、この実験だけで「この波形は人の歩行」「この波形はドア開閉」と正確に判定できることが証明されたわけではありません。また、今回の実験は窓枠へセンサーを組み込んだ状態で行ったものでもありません。
それでも重要なのは、カメラで人を撮影しなくても、住宅の中で起きた人の通過やドア開閉といった日常の出来事が、「空気の変化」としてセンサーに現れることを実際の住宅で確認できた点です。
この結果は、空気動圧センサーを室内側の窓枠内部へ組み込み、「活動があった可能性」「長時間大きな変化がない」「ドアや窓が動いた可能性がある」といった暮らしの変化を捉える見守り窓を考えるうえで、基礎となるデータの一つです。

図4 一般住宅での初期実験:平常時、人の通過、スライドドア、玄関ドア開閉の波形比較
図4の上段は0.5Hz帯、下段は3~5Hz帯の波形です。平常時と比べ、人がセンサー近傍を通過したときやドアを開閉したときに波形の変化を確認しました。これは「人の通過」や「ドア開閉」を自動識別できることを示す試験ではなく、住宅内の日常的な空間変化を空気動圧として観測できるかを確認した初期評価です。また、この実験は窓枠にセンサーを組み込んだ状態ではなく、今後の見守り窓研究につなげるための基礎データとして位置づけています。今回の製品構想では、まず開閉しないはめ殺し窓へセンサーを設置します。その固定されたセンサーから、室内の人の移動や玄関ドアなど別の場所で発生した空気の変化をどこまで捉えられるかを検証していく考えです。
「センサーを置く住宅」から「住宅そのものが見守る」へ
この2社の技術を組み合わせたとき、最も重要なのは「新しいセンサー製品が一つ増える」ということではありません。
すでに住宅にある窓を利用し、後付けによってセンシング、通信、電源といった機能を持たせることで、住宅そのものが居住者の変化を見守る仕組みをつくることです。
まずは既存のはめ殺し窓を対象に、室内の空気変化を捉えられる位置へ空気動圧センサーを組み込みます。取得した信号をBLEで室内ゲートウェイへ送り、家庭のWi-Fiを経由してクラウドへ送信し、遠隔の家族がスマートフォンで確認する構成を想定しています。後付け方式のため、新築時に専用設備を組み込まなくても導入でき、新規に窓一式を設置する場合と比べて工事負担や費用を抑えられることも大きなメリットです。
通知も「異常」と断定するのではなく、
「活動変化あり」
「一定時間大きな変化なし」
「通常と異なる変化を確認」
といった、家族が電話や訪問を判断するための情報として提供します。
カメラを使用しないため、寝室や日常生活空間にも導入しやすい可能性があります。
さらに、窓は外光を受けられる場所です。小型太陽電池と蓄電池を組み合わせ、センシングと通信に必要な電力を自給できれば、新たな電源配線を必要としない自立型IoT窓へ発展できます。
ただし、自立電源については、窓の方位、日射量、太陽電池面積、通信頻度、蓄電容量を含めた電力収支の実証が必要です。最初から「完全自立」を前提とするのではなく、「どの条件なら年間を通して自立運転できるか」を研究で明らかにすることが重要です。

図5 見守りスマート窓のシステム構成イメージ
図5は、屋外側の小型太陽光発電から、窓枠内部の空気動圧センサー、BLE、室内ゲートウェイ、家庭のWi-Fi、クラウド、家族のスマートフォンまでの情報の流れを示しています。センサーは映像や会話を取得せず、空気の変化を信号化して送信する想定です。太陽光発電と蓄電池による自立運転は、日射条件や消費電力を含めた電力収支の実証が必要であり、今後の研究項目です。
実現には「窓特有のノイズ」を解決する必要がある
一方、窓に空気動圧センサーを設置するだけで製品が完成するわけではありません。
むしろ共同研究として重要なのは、窓だからこそ発生する影響を明らかにすることです。
屋外の風、雨、交通振動、玄関ドアや室内ドアの開閉、エアコンの気流などは、居住者の動きと同時に空気動圧センサーへ入力されます。今回の構想では、まず開閉しないはめ殺し窓にセンサーを固定することで、センサー自身の設置状態を安定させたうえで、これらの環境変化と人の動きをどこまで分けられるかを検証します。
そこで、0.5Hz付近の超低周波(Infrasonic)帯域に現れる緩やかな圧力変化、歩行などの周期的な変化、建物振動、瞬間的な衝撃などを複数帯域で同時に取得し、それぞれの特徴を比較する必要があります。
さらに、
・はめ殺し窓の窓枠のどの位置に設置すれば、最も室内活動を捉えやすいか
・屋外の風や雨の影響をどこまで抑えられるか
・人の移動と玄関ドア・室内ドアの開閉をどこまで分けられるか
・長時間の静穏状態をどのように判定するか
・太陽電池で必要な電力を確保できるか
・既存窓を複層化しながら、断熱性能、気密性、施工性を確保できるか
・後付け工事として、施工時間や導入費用をどこまで抑えられるか
といった項目を実環境で検証する必要があります。
ここに、ロッグロッグが持つ「既存窓を複層化し、後付けによって新たな機能を持たせる技術」と、LDSが持つ「空気の変化を信号化する技術」を共同研究する意味があります。
単にセンサーを窓へ取り付けるのではなく、断熱性能、施工性、コスト、センシング性能まで含めて、既存住宅へ導入できる一つの製品として成立させることが共同開発のテーマになります。
窓を、都市全体の見守りインフラへ
この構想が実現すれば、対象は独居高齢者住宅だけに限定されません。
まずは既存住宅や施設のはめ殺し窓からスタートし、高齢者住宅、介護施設、集合住宅、子どもの留守番、ペットの見守り、防犯、空き家管理などへ用途を広げることができます。
既存窓への後付け方式を基本とすることで、新築住宅だけを対象とするのではなく、すでに建っている多くの住宅や施設を対象にできることが、この構想の大きな特徴です。
従来の見守りは、「問題がある場所に機器を追加する」という発想が中心でした。
これに対して本構想は、
「すでに住宅に存在する窓を活用し、後付けによって暮らしを見守る社会インフラへ変えていく」
という考え方です。
新しい機器を部屋の中へ増やすのではなく、既存住宅の一部である窓に機能を加えることで、普段は意識することなく暮らしを見守る仕組みを目指します。
ロッグロッグが持つ、既存窓を複層化して断熱性能を高めながら新たな機能を組み込む技術と、LDSが持つ非接触の空気動圧センシング。その二つを組み合わせることで、窓は「複層化によって住宅の断熱性能を高める」だけでなく、
「エネルギーをつくる」
「室内の変化を感じ取る」
「離れた家族へ暮らしの変化を伝える」
という新しい役割を持つ可能性があります。
しかも、既存の窓を活用した後付け方式であれば、大掛かりな新設工事を必要とせず、工事負担や費用を抑えながら幅広い住宅・施設へ展開できます。
これは単なるIoT機器の開発ではありません。
既存の窓を「断熱」「省エネルギー」「見守り」の3つの機能を持つ住宅設備へ進化させ、住宅そのものが人を見守る新しい社会インフラをつくるための研究テーマです。
本記事・研究に関するお問い合わせは下記へ
株式会社リキッド・デザイン・システムズ
センサー共創ビジネス担当 info@liquiddesign.co.jp
製品仕様書:https://liquiddesign.co.jp/wp-content/uploads/2025/10/LDS-VitalSensor-spec.pdf

