日本では、東洋医学をベースとしたアプリケーションは、一般的に認知度も信用度も低い傾向があります。漢方薬や鍼灸に一定の支持はあるものの、「脈診」や「五行バランス」といった中医学の概念は科学的根拠に乏しいと見なされ、実用性については賛否が分かれています。
そのような中で近年注目されているのが、西洋医学的なバイタルデータと東洋医学の理論を融合し、AIによって体調を可視化する“ハイブリッド型健康管理技術”です。
本稿では、筆者が名古屋大学・張賀東教授の講演を拝聴した際、「中医学の脈診」を科学的に再現しようとする研究内容が、当社が開発した「五行ドクター」の思想と重なる点が多く、とても共感しました。そこで、張賀東教授が開発した血圧脈波のウェアラブル計測技術と、弊社が開発した「五行ドクター(脈診の見える化アプリ)」を紹介し、それぞれの共通点や相違点、そして今後融合した場合の技術的な将来性についてご紹介します。
なお、2025年6月に弊社と張教授の研究室との間でオンライン会議を実施し、技術的な意見交換を行ったうえで、当記事を作成しました。

張教授のセンサ技術と五行ドクターを比較してみました
張教授のセンサは「貼るだけで血圧がわかる未来の脈波センサ」
張教授が開発した血圧脈波ウェアラブル計測センサは、手首の橈骨動脈の上に装着し、脈のわずかな変化(血圧脈波)をとらえることができる、やわらかくて高感度なセンサです。雲母シートの上に、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)という圧力を感じる特殊な素材を重ねて作られており、肌に軽く触れるだけで、1秒に1回以下の微細な変化でもしっかり検出します。加えて、装着時に多少ずれても安定した計測ができ、腕を締め付けることもなく快適に使えます。
このセンサが取得した脈波データは、AI(1D-CNN)によって解析され、血圧を高い精度で推定することが可能です。カフを使わず、事前の調整(キャリブレーション)も不要であるため、将来的には医療・介護・家庭用の非侵襲モニタリングツールとしての応用が期待されています。
現在、この血圧脈波ウェアラブル計測デバイスは2〜3年後の製品化を目指し、鋭意開発が進められています。
詳しくは、Tonggali GAPファンドシーズ集48~49ページの記事(https://www.aip.nagoya-u.ac.jp/wp-content/uploads/2025/03/STST2024.pdf)をご参照ください。
五行ドクターは「血圧測定から、体のバランスを見える形に変えるアプリ」
五行ドクターは、日常の血圧測定データを使って、体の調子や不調のサインを“色と図形”で可視化するスマホアプリです。家庭用の血圧計やスマートウォッチで取得した「収縮期血圧・拡張期血圧・脈拍」から、心拍出量(CO)や代謝量(META)などの血行動態パラメータをAIで計算し、それらを東洋医学の五臓(肝・心・脾・肺・腎)にマッピングして、体質や未病、ストレスの傾向を表示します。
まるで“体のバランスシート”を読むように、今の自分の状態がグラフィカルにわかる仕組みとなっており、ユーザー自身が日々の体調変化を理解し、行動につなげやすい設計が特徴です。そのため、なんとなくの診断ではなく、根拠のある数値とロジックで体の状態を見える化しているのがポイントです。

◎脈診を目指した高精度PZTセンサと五行ドクターの比較表

高精度PZTセンサって、何ができる技術ですか?
張教授の研究室とのオンライン会議でご説明いただいたPZTセンサー+AIによる解析技術を簡単にまとめてみました。
① センサのしくみ:肌のわずかな振動をとらえる「高感度の電子肌」
張賀東教授が開発したセンサは、腕や手首などに貼るだけで、脈のわずかな変化を高精度に測れる“電子の肌”のようなセンサです。このセンサの材料には「PZT(ピジーティー)※」という特殊なセラミック素材が使われていて、わずかな振動でも電気信号に変える力を持っています。しかもセンサの土台には、とても薄くて柔らかい雲母の板(マイカ)が使われていて、皮膚にピタッとフィットします。
センサの上には柔らかいパッドが付いていて、皮膚からの圧力(=脈拍)をちょうどよくセンサに伝えてくれるので、わずかな脈の変化(たとえば1秒に1回以下のスローな変化)でも、くっきりととらえることができます。
※PZT=チタン酸ジルコン酸鉛(Piezoelectric Zirconate Titanate)

写真:血圧脈波のウェアラブル計測センサ
参考論文:Wearable PZT Piezoelectric Sensor Device for Accurate Arterial Pressure Pulse Waveform Measurement
② AIのしくみ:測った脈の波から血圧まで自動で予測
このセンサがとらえた脈の“波形”は、もともと雑音が非常に少なく、実用上はほとんど問題ありませんが、より安心して使えるように軽いノイズ処理を追加しています。
その後、AIの一種である「1D-CNN(一次元畳み込みニューラルネットワーク)」にその波形を読み込ませると、波の形から血圧(上の血圧と下の血圧)を高い精度で予測することができます。
このAIは、「ReLU(リルー)」という判断ルールや、「Adam(アダム)」という学習法を使って、より正確な予測をするように訓練されています。特にすごいのは、血圧計を使った事前の調整(キャリブレーション)なしでも、かなり正確な数値が出せるという点です。
血圧脈波ウェアラブル計測技術×五行ドクターが拓く未病ケアの可能性
名古屋大学の張賀東教授が開発中の血圧脈波ウェアブル計測技術は、手首や腕に貼るだけで中医学における「脈診」のように脈波のわずかな変化をとらえられることを目指して開発されたセンサ技術です。
このセンサは体の微細な変化(皮膚の表面で検出されるごく微細な圧力変化や反射波の形状)を、高精度かつ非侵襲的に記録することができるため、自覚症状が出る前の未病状態の兆候をとらえる可能性を持っています。
一方、弊社が開発した「五行ドクター」は、血圧や脈拍から導かれる血行動態の指標をもとに、東洋医学の五臓(肝・心・脾・肺・腎)に関連づけた体調バランスをアプリ上で見える化し、ユーザー自身が未病傾向を直感的に理解・管理できるアプリケーションです。
もし、この2つの技術を組み合わせたらば、未病状態に特有の“脈波の揺らぎ”や“体質のアンバランス”をデジタルに捉え、ユーザーにわかりやすく表示することが可能になるかもしれません。
血糖変動の予兆を見つけ、糖尿病予防にも活用できる
未病ケアの中でも、特に糖尿病予防との関連は極めて重要です。
五行ドクターは、血圧や心拍の変動から「代謝の乱れ」や「末梢血流の変化」を捉え、血糖値の乱れに関する兆候を間接的に推測するアルゴリズムを備えています。(注:現在、アプリへは未実装 詳しくはこちら )
そこに張教授のセンサが記録する高精度な脈波形(例:反射波の立ち上がり・減衰)を加えることで、血糖変動の予兆をより早期に、より高い精度で補足することができるかもしれません。
この組み合わせにより、ユーザーは日常生活の中で、糖代謝異常のサインに気づきやすくなり、食生活や運動習慣の改善につなげることが可能になります。
結論:東洋医学と科学の融合で、健康寿命をのばす
このようなハイブリッド型の健康解析技術は、「病気になってから治す」から「病気になる前に気づいて整える」へと、健康管理の常識を大きく変える可能性を秘めています。
張賀東教授の血圧脈波ウェアラブル 計測技術は、非侵襲かつ高精度に脈波をとらえる先進的な技術であり、五行ドクターは、体調の変化を東洋医学的な視点で“見える化”し、日常生活で活用できるスマートなアプリです。
この2つを組み合わせることで、セルフケアや予防医療において、これまでにない新しい選択肢が生まれると筆者は期待しています。
こうしたアプローチは、健康寿命の延伸や生活の質(QOL)の向上にとどまらず、慢性疾患・生活習慣病の早期対処を通じて、高齢化が進む社会全体の医療費抑制にも貢献できるはずです。
家庭、職場、介護施設、地域社会――あらゆる場面でこうした技術が普及していくことで、「自分の体調を自分で整える」未来型の健康社会が、少しずつ現実のものになっていくことを願っています。
• 張研究室はこちら:
https://zhang-laboratory.org/
• 完全無料の未病・美肌チェックはこちら:
https://gogyou-doctor-prod.web.app/
• 五行ドクターの詳細はこちら:
https://liquiddesign.co.jp/technology-line/gogyo-doctor/
• 五行ドクターの使い方動画:https://www.youtube.com/shorts/BiuBFwzIaRI
※注意:五行ドクターはセルフケア支援を目的としたアプリであり、医療機器ではありません。診断・治療が必要な場合は、必ず医師にご相談ください。

