地震発生メカニズムの理解と予測技術の高度化は、防災科学における重要な研究領域です。近年注目を浴びているGNSS(GPSを含む測位衛星システム)による地殻変動観測は、地震発生場の長期的な力学状態を把握するために世界中で運用されています。一方、岩石破壊時に発生するアコースティック・エミッション(AE)の超低周波成分を捉え、巨大地震直前の「破壊核形成信号」を観測する高島式地震予知は、従来とは異なる直前予知型のアプローチです。両者の比較を通して、2つの技術の違いを分かりやすく説明し、加えて、今週の東日本の地震予知をお知らせします。

1. GNSSによる地殻変動観測

GNSS観測網は、地殻の水平変位・上下変位を準リアルタイムで捉える仕組みで、日本では国土地理院がGEONETとして約1200点以上の電子基準点を運用しています。1990年代以降の技術発展により、プレート沈み込みに伴う地殻短縮、内陸地震の震源すべり分布、ゆっくりすべりイベントなど、多様な地殻変動現象が詳細に明らかになってきました。

近年は、1秒間隔で座標を取得するキネマティック解析や、地震発生直後に規模推定を行うリアルタイム解析の精度が向上しています。また、中国のBeiDou、EUのGalileo、日本の準天頂衛星を含む多衛星システムを組み合わせたGNSS解析により、観測精度はさらに向上する見込みです。

一方でGNSSは、海水を透過しない電波を利用するため海底観測が難しく、東日本大震災のような海溝型巨大地震の「直前予測」には根本的に向いていません。GNSSは地殻変動の把握には優れていますが、破壊開始直前の物理信号そのものを観測対象としていない点が限界となります。

2. 高島式地震予知の観測原理

高島式地震予知は、破壊過程で発生するアコースティック・エミッション(AE)を観測する手法に基づいています。AEは岩石のひずみ蓄積と破壊に伴う瞬間的な振動であり、矩形関数状の周波数スペクトルを持ち、直流近傍を含む超低周波成分を強く有しています。これにより、M7クラス以上の地震では数百kmにわたり信号が伝播するとされています。

観測装置は、観測室の固有共振周波数を利用し、地中から伝わる微振動を1000倍以上に増強して取得する構造を持ちます。この仕組みは、超低周波の減衰を抑えつつ長距離伝播する破壊核形成信号を捉える点に特徴があります。海底から発生する巨大地震でも、超低周波成分は地中を通って陸域に到達するため、海底地震の事前推定も可能とされています。

2011年東日本大震災では、震源から約380km離れた北品川で、地震13日前に3312秒(55分)の前兆的連続波が観測されていた記録が残されています。この事例は、破壊核形成信号が海底から長距離伝播する可能性を示す例の一つといえます。

GNSS と 高島式地震予知の概要比較表

項目GNSSによる地殻変動観測高島式地震予知
観測対象地表の水平・上下変位破壊核形成信号(連続AE波)
観測原理測位衛星の電波を利用して座標を測定AE超低周波(16Hz以下)を検出
得意領域長期的地殻変動の把握直前予測(破壊核形成信号の検出)
海底対応困難(電波が届かない)可能(超低周波は地中・海底を伝播)
役割地殻活動の把握・広域解析短期予測・地震前兆の検出
長所広域で高精度の変位データ1地点で海底地震の前兆も捉えられる
限界直前予測には不向きノイズ対策と観測点拡張が課題

3. 観測可能領域と対象の違い

両手法の最も重要な違いは、観測対象の物理量にあります。

GNSS

  • 地表の変位を測定する技術です。
  • 長期的なプレート運動や地殻変形の把握に優れています。
  • 海底は観測点が限られ、深部破壊過程を直接観測することは困難です。

高島式

  • 破壊核形成信号(連続AE波)を観測対象とします。
  • 超低周波が海底からも長距離伝わるため、海底地震の事前推定が可能です。
  • 地震発生直前の破壊プロセスそのものに着目します。

この違いにより、GNSSは地震に至る長期的プロセスの分析に適しており、高島式は直前過程の検出に特化した技術となります。

観測原理と観測可能領域の違い

観点GNSS地殻変動観測高島式地震予知
観測原理衛星電波で地表座標を計測部屋の共振でAE超低周波を増幅検出
観測領域陸上の電子基準点ネットワーク室内1点で陸域・海域の両方
観測現象プレート運動、地殻短縮、ゆっくりすべり破壊核形成信号(連続P波)
海底地震直接観測は困難信号が陸域に伝播するため検出可能
直前予測不可可能(15日・45日以内の発生推定)
時間スケール長期・準リアルタイム数日〜数週間前の短期予測
強み地殻変動の全体像を把握海底巨大地震の前兆を捉える可能性
弱み深部破壊過程には非対応ノイズ識別と自動判定精度の向上が必要

4. 時間予測と科学的課題

GNSSは地震発生場の状態を高精度に記述しますが、「いつ起きるか」を直接示すものではありません。一方、高島式では破壊核形成信号の検出後の発生時期の統計が示されており、

  • 太平洋プレート型地震は検出後15日以内
  • フィリピン海プレート型地震は検出後45日以内

という経験則が整理されています。

ただし、破壊核形成信号の自動判定の精度向上、観測点の増加、環境ノイズの抑制など、社会実装に必要な技術課題も残されています。一方で、海底巨大地震の直前信号を陸域で捉えられる可能性は、既存技術にはない特徴となります。

5. 今週の東日本の地震予知解析(11/23〜30)

埼玉県南部・鈴谷観測点において、期間中に2件の破壊核形成信号(前兆波)が検出されました。いずれも振幅・周波数が典型的な連続AE波の特徴を持っています。

① 11月24日 10:54

  • 持続時間:65秒
  • 周波数:12.2Hz / 10.4Hz
  • 最大振幅:38mVp-p
  • 推定震源:鈴谷より150km以内
  • 規模:M3〜4
  • 発生予想日:12月2日±5日
  • 発生確率:80%
  • 鈴谷での最大震度:1程度

② 11月27日 09:54

  • 持続時間:58秒
  • 周波数:12.4Hz / 10.3Hz
  • 最大振幅:26mVp-p
  • 推定震源:埼玉県南部直下
  • 規模:M3
  • 発生予想日:12月5日±5日
  • 発生確率:80%
  • 鈴谷での最大震度:1未満

今回の2波はいずれも短時間・狭帯域の連続AE波であり、規模はM3クラスと推定されます。生活への影響は限定的と考えられますが、同一領域における応力変動が継続している可能性があるため、今後も観測を継続します。

地震予知は「当てる」ためのものではなく、「備える」ための科学です。高島式地震予知研究会では、今後も前兆波の観測データを公開し、地域防災や減災に役立つ最新情報を発信していきます。

【関連リンク】
◎ 高島式地震予知の解説記事一覧:https://liquiddesign.co.jp/category/blog/earthquake/
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