気象庁がM9.9を誤推定。地震情報の信頼性が問われた10月16日

2026年10月16日午後0時40分、気象庁は北海道から中部地方の広い範囲に緊急地震速報(警報)を発表しました。速報では千島列島を震源とするマグニチュード(M)9.9という、東日本大震災のM9.0を大きく上回る数値が示されました。

ところが、その後の確認でM9.9は大幅な過大推定と判明しました。実際にM9.9の超巨大地震が発生したわけではありません。では、なぜこのような異常な推定値が出たのでしょうか。

気象庁が同日夕方に発表した第2報では、計算処理に関する2つの問題が説明されています。第一に、日本から非常に遠い震源の地震に、日本国内の地震を想定したマグニチュード計算式を適用したこと。第二に、地震の規模を計算する際の震源位置と、日本各地の震度を予測する際の震源位置が異なっていたことです。

分かりやすく言えば、地震の「大きさ」を測る計算と、日本に届く「揺れの強さ」を計算する際に、別々の場所で起きた地震であるかのような条件が使われたのです。本来は同一の震源を基に計算しなければなりません。こうした不整合が、広範囲に強い揺れを予測する一因となりました。

気象庁公式発表(2026年10月16日・第2報):https://www.jma.go.jp/jma/press/2610/16c/202610161730.html

気象庁公式発表(同日・第3報):https://www.jma.go.jp/jma/press/2610/16d/202610162240.html

ただし、なぜ2つの計算で異なる震源が使われたのか、その根本原因は第2報の段階で調査中とされていました。気象庁は同日夜の第3報で、過大予測への緊急対策を実施したことも公表しています。

今回の一件で混同してはいけないのは「緊急地震速報」と「地震予知」の違いです。緊急地震速報は、地震が起きた後に先に伝わるP波などを検出し、強い揺れが届く前に知らせる仕組みです。数秒から数十秒という短時間で推定するため、情報には誤差が生じ得ます。一方、地震予知は、まだ地震が起きていない段階で発生時期や場所などを推測する研究です。

したがって、今回の過大推定をもって気象庁の仕組み全体が役に立たないと考えるのは適切ではありません。緊急地震速報は強い揺れから身を守る重要な情報です。そのうえで、もし数日前から岩盤の変化を捉えられるなら、より早い防災準備に役立つ可能性があります。

この「地震発生前の変化を捉える」ことに2004年から取り組んできたのが、民間の研究である高島式地震予知です。今回は気象庁の事例を入り口に、その仕組みと限界、10月12~19日の観測結果、LDS-T6Bセンサーによる計測を紹介します。

高島式地震予知とは?地震が起こる前の小さな変化を捉える

地震は、地下の岩盤が突然大きく破壊されることで発生します。

しかし、岩盤の破壊は、必ずしも一瞬で始まるわけではありません。岩石破壊実験では、大きな破壊に至る前に小さな亀裂が生まれ、それらが成長・連結していく現象が確認されています。

このような破壊の準備過程を「破壊核形成」と呼びます。

高島式地震予知は、この過程で微弱な振動が発生し、地表まで伝わってくるのではないかという仮説に基づいています。

例えば、硬い板をゆっくり曲げ続けると、完全に折れる前に小さな亀裂が生じることがあります。地震でも、地下深くの岩盤が大きく壊れる前に、何らかの微弱な信号が生まれている可能性があるという考え方です。

ただし、実験室で確認された岩石破壊現象と、自然地震の数日前に遠方で観測される微振動が同じ原因で発生しているかについては、まだ科学的な検証が必要です。

普通の一軒家の部屋を利用して超微弱な振動を計測する

高島式の特徴は、地震の観測に、普通の民間建物の部屋を利用することです。

楽器のギターは、弦の小さな振動を胴体に響かせることで、音を大きくします。

高島式も、これに近い原理を応用しています。

建物の部屋には、特定の周波数に反応しやすい性質があります。高島式では、この観測室固有の応答を利用して、通常では検出しにくい低周波の微振動(前兆波)を捉えようとしています。

高島式の研究資料では、観測室の共振によって微振動を1000倍以上に増強できると説明しています。これは研究グループによる技術上の主張であり、増幅率を独立した校正測定で確かめることが今後の課題です。

高島式は、一般的な地震計で大きな揺れを検出する方法とは異なり、地震発生前の微弱な信号を候補として抽出し、その後の地震発生との関係を調べる研究と言えます。

前兆波を捉えられなければ、予測はできない

ここで、高島式の限界についても説明しておく必要があります。

高島式では、前兆波と判断する信号が観測されなければ、その方法による地震予測はできません。

また、地震によっては信号が弱かったり、観測点から遠すぎたり、周囲の雑音に埋もれたりする可能性があります。

つまり、すべての地震を事前に予測できるわけではありません。

この点は、地震予知技術を評価するうえで重要な点です。

10月12日~19日の観測結果は「前兆波なし」

今回の観測では、富山県東部と埼玉県南部・鈴谷の2地点について、10月12日から19日までのデータを解析しました。

その結果、両地点とも高島式が前兆波と判断する特徴的な信号は観測されませんでした。

研究会では、この結果を首都圏直下地震を示す新たな信号が確認されていない状態と捉えています。

ただし、前兆波が観測されていないことは、大地震が発生しない保証ではありません。

観測できなかった地震が存在する可能性も考慮し、平常時からの防災対策を継続する必要があります。

20年以上の研究と455例の地震推定実績

高島式の研究は2004年に始まりました。

以来、観測機器と解析方法を改良しながら、地震発生前に観測された信号と実際の地震との照合を続けています。

2026年10月5日付の最新技術資料では、2021年から2026年9月29日までの約5年間に、M3~7.6の地震について、計455例の推定成功事例が整理されています。

内訳は、埼玉県南部・鈴谷が318例、宮城県大崎市古川・仙台市が137例です。

高島式研究グループでは、前兆波を検出し予測した事例について約90%に近い的中率を報告しています。ただし、この数字は研究グループの内部評価であり、公的な緊急地震速報の誤報率と直接比較できる数値ではありません。

ただし、455例は成功と判定された事例数です。空振りや見逃しを含めた予測総数が整備されていないため、約90%という数値は独立した統計検証で確定した的中率ではありません。

また、気象庁の緊急地震速報と高島式では、観測対象も発表条件も異なるため、今回の誤報を根拠として高島式の方が誤報率が低いとは直接比較できません。

高島式の実用性を確かめるためには、今後も成功例だけでなく、空振りや見逃しを記録することが必要です。

空気動圧LDS-T6Bセンサーが支える民間地震予知技術

この長年の研究を技術面で支えるのが、株式会社リキッド・デザイン・システムズが開発した高感度空気動圧センサー「LDS-T6B」です。

LDS-T6Bは、空気のわずかな圧力変化を電気信号として捉えるセンサーです。

LDS-T6Bの主な仕様

測定帯域0.15Hz~1kHz
感度50mV/hPa
重量約10g
特徴高S/N比、ノイズ耐性、広帯域応答

この性能により、人には感じられないような微弱な空気の変動を連続して記録できます。

LDS-T6Bは、地震予知だけでなく、呼吸・心拍の非接触計測、介護見守り、構造物の振動監視などにも応用されています。

高島式地震予知では、このような高感度センシング技術を活用し、観測室内の低周波信号を解析しています。

重要なのは、高性能なセンサーがあるだけでは地震を予測できないという点です。

センサーが微振動を正確に捉えること、地震由来と考えられる信号を環境ノイズから区別すること、そして事前の予測条件と地震結果を照合すること。この3つがそろって初めて、予測技術として評価できます。

地震予知ビジネスの将来と、今後の課題

今回の気象庁のM9.9誤推定は、地震情報に求められる正確性と迅速性の難しさを示しました。

一方、高島式は、地震が起きる前の微弱な変化を捉えるという、異なる方向から地震予測に挑戦しています。

約20年以上の研究と455例の内部成功事例は、今後の検証に利用できる観測資産です。

さらに、LDS-T6Bのような小型高感度センサーを活用し、複数地域に観測点を設置できれば、将来的には企業のBCP対策、自治体防災、施設管理向けの情報サービスへの展開も考えられます。

ただし、地震予知の実用化には、独立した第三者による再現試験と、空振り・見逃しを含めた予測精度の検証が欠かせません。

高島式が目指すべきなのは、「地震を必ず当てる」と宣言することではなく、前兆波の検出によって、実際にどこまで地震発生の可能性を絞り込めるのかを科学的に示すことです。

今回の観測期間には新たな前兆波が確認されませんでした。しかし、それも重要な観測結果の一つです。

地震予知の未来は、信号が出た日だけでなく、何も観測されなかった日も含めて記録を積み重ねることから始まります。

関連リンク

高島式地震予知の解説記事一覧

https://liquiddesign.co.jp/category/blog/earthquake

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