最初に

本シリーズは、「脈診を科学する」という問いを軸に、35年にわたる研究の歩みを6回連載で紹介します。各回では、その時代に実際に起きた出来事と、そこで生まれた人間関係、そして生み出されたテクノロジーを対応させながら整理しています。ソニー脈診研究所での臨床と工学の融合、研究所解散後のMIラボ創業、脈診を再現しないという方向転換、五行演算の確立、そして五行ドクターとしての社会実装まで。「脈診を科学する」という試みが、どのように形を変えながら受け継がれてきたのかをたどります。その第1回目の記事となります。

脈診研究はなぜソニーで始まったのか

高島充がソニーに入社したのは1974年のことだった。
慶應義塾大学工学部電気工学科を卒業し、電子回路や測定技術を専門とする、ごく普通の工学系技術者としてのスタートである。

学生時代から、高島はアンプやスピーカーを自作し、信号を測り、数値を確認することを好んでいた。
「音が良いか悪いか」を感覚で語るよりも、「どこがどう違うのか」を測定し、比較する。その姿勢は一貫していた。

この時点で、高島が東洋医学や脈診に関心を持っていたわけではない。
脈診研究は、思想や信仰から始まったものではなく、工学者の日常の延長線上から生まれた研究だった。

転機となったのは、1980年代後半、ソニー社内で静かに進められていたあるテーマだった。
それは、製品開発や事業とは直接結びつかない、「人間とは何か」「生命とは何か」を技術的に扱おうとする試みである。

その中心にいたのが、ソニー創業者・井深大だった。

井深は晩年、「医療をやりたい」という言葉を繰り返していたとされる。
しかしそれは、医療機器メーカーになるという意味ではなかった。
彼が問い続けていたのは、「人間の状態を、技術でどこまで扱えるのか」という、より根源的な問題だった。

ソニーにあった「医療への源流」

1980年代後半、ソニー社内では、表立った事業とは別に「人間とは何か」「生命とは何か」を扱う研究が静かに進められていた。

その中心にいたのが、ソニー創業者 井深大 である。

日経クロステックの記事でも語られているように、井深は「医療をやりたい」という強い思いを持ち、「脈診研究所(後の生命情報研究所)」を立ち上げた人物だった。

参考:日経クロステック「ソニーの医療への取り組みの“源流”、井深大氏の遺志を継ぐ」
https://xtech.nikkei.com/dm/article/INTERVIEW/20140117/328171/

井深名誉会長から直接声をかけられた高島

1989年、高島は井深から直接声をかけられる。
「脈を測れないか」

この言葉は、研究テーマの提案というより、素朴な問いかけだった。
井深は当時、不整脈を抱えており、自身の身体の状態を把握する手段を探していたという。

高島は電気屋として考えた。
不整脈は心臓のリズムの乱れであり、ならば電気信号として捉えられるはずだ。

数日後、高島は簡易的な脈波測定器を作り上げる。
東洋医学を模した装置ではない。血流による圧力変化を、物理量としてそのまま拾い上げる、極めて工学的な試作器だった。

完成した装置を見た井深は、強い関心を示したという。

高島は井深大の“個人的な技術要望”に応える存在だった

質問:井深大氏とは、どのような関係だったのでしょうか。
高島:
「正式な役職ではありませんが、井深さん個人の持ち物を直したり、頼まれたものを作ったりしていました」

高島は、井深の身の回りの技術的な要望に応える立場にあった。
壊れた機器の修理、使い勝手の調整、必要に応じた試作。
組織図には現れないが、井深個人に最も近い技術者の一人で、「技術秘書という立ち位置であった。」と高島は言う。

「個人の遊びで終わらせるな」

完成した試作器を見た井深の反応は明確だった。

質問:井深氏の反応は。
高島:
「これは個人の遊びで終わらせるな。本社の研究としてやりなさい」と、

この一言で、研究の位置づけが変わった。
一人の不整脈を測る装置は、
「人間の状態を測る技術」へと引き上げられた。

こうして1990年、“ソニー脈診研究所”が設立される。
井深自身が所長を務め、高島は研究の中心人物として脈診の研究を担うことになる。

「脈診を科学する」という挑戦

研究所のテーマは明確だった。
「脈診を科学する」

橈骨動脈の脈波を測定し、圧迫条件を変えながら波形を解析する。
「浮」「沈」といった東洋医学の概念は、圧力応答や血管特性として再定義されていった。

質問:東洋医学を証明しようとしていたのですか。
高島:
「違います。異なる体系を、技術でつなげられるかを見ていただけです」

高島は、東洋医学を肯定も否定もしなかった。
重要だったのは、「起きている現象を、測れるかどうか」だった。

この研究は、やがて次の「脈診の達人」との出会いによって、決定的な深みを持つことになる。

――脈診を科学する 五行ドクター開発の系譜2へ続く

脈診に関する記事はこちらから閲覧できます。https://liquiddesign.co.jp/category/blog/me-byo/

◎五行ドクターの紹介: https://liquiddesign.co.jp/technology-line/gogyo-doctor/

※五行ドクターはセルフケア支援を目的としたアプリであり、医療機器ではありません。診断や治療が必要な場合は、必ず医師に相談してください。

◎ 高島式地震予知の記事一覧:https://liquiddesign.co.jp/category/blog/earthquake/

注意事項 

本記事は、高島充氏への直接インタビュー内容を主軸に、『人間 井深大』(島谷康彦 著)、高島氏が発表した複数の学術論文、株式会社リキッド・デザイン・システムズが保有する技術資料、ならびに白熙洙(ペク・ヒス)医師に関する国内外の公開記事・文献情報を参考に構成しています。記載内容は、インタビュー時点での発言や当時公開されていた資料・報道に基づいて整理したものであり、関係者の記憶や認識、時代背景の違いにより、事実関係の解釈や表現に一部差異が生じる可能性があります。本記事は特定の人物・研究・技術を断定的に評価することを目的とするものではなく、研究史・技術史を伝える記録としてご理解ください。